短歌⑦-「ぬるい梅雨の」
浴槽が梅雨で満ちて体温の
心にも似た柔なぬくもり
くだものを心に乗せて笑い合う
涙も飛沫になると知らずに
縫いあとのほつれた袖から行き渡る 世界は少し優しいポブラ
翡翠から言葉があふれる僕たちは
わすれたくないことも忘れて
忘れたくないことも忘れて消える。ほつれた縫いあとから世界へ、記憶がこぼれ落ちて広がって、満たしていく。かつては空を飛べた箒みたいに、今は野に咲く花とともに、全て忘れて横たわり、あなたを見ている。いつか僕たちも世界に満ちて、忘れていくのだ。
2019/6/8